2024/9/19

フロイト「ねずみ男」症例(強迫神経症の一症例に関する考察)を読む、の続き。第二部(a)読解の続き。

強迫観念は夢と同じように、もともとのメッセージが歪曲されて意識平面に浮上してくる。それは機知のメカニズムにも似たものである。フロイトによれば、強迫観念に働く歪曲の代表的なものは「省略」である。

たとえばねずみ男の強迫観念であった「もし自分がこの夫人と結婚したら、(あの世で)父に何か不幸が起こる」は、その省略部分を補って還元すると次のようになる。

「もし父が生きていたら、この夫人と結婚しようと言う自分の意図を、父はちょうど幼い頃のあの事件の時のように怒り狂うだろう。その結果自分は再び父を憎み、父が酷い目に遭えばいいと思うだろう。そして自分の願望は全能だから、父はきっとその酷い目に遭うだろう。」(フロイト著作集9、p265)

これをみると、ちょうど自分の父に対する憎しみの部分、あるいは無意識に抑圧された非倫理的な自己の部分が省略されていると言えるだろう。

省略的な歪曲が見られる別の強迫神経症者の例がこの次に紹介されているのだが、そんなに新しい内容はないので省略。

(b)強迫神経症患者の二、三の精神特性について——現実、迷信および死に対する彼らの態度

強迫神経症者に共通する精神特性として、「迷信的」ということがある。とはいえ、ねずみ男は明晰で啓蒙的な人物でもあったため、自らの迷信的な強迫性質を自覚してもいた。「それゆえ彼は、明心的であると同時に迷信的でないところもあったというわけである」(p267)。彼は強迫に襲われると(あるいは抵抗が働くと)、「その迷信的な信仰的確信を裏付けるような、きわめて不思議な偶然(の一致)を体験した」(p268)。

たとえば、ちょうど頭に思い浮かべていた人物にばったり出くわしたり、長い間音信不通で忘れていた人物のことを偶然思い出した時に、その人からの手紙がきたり、など。にもかかわらず、これに対して患者は合理的な態度をとってこれを迎えた。深刻な予兆的・予言的な強迫観念が上がってきても、特にそれによって何か本当にひどいことが起こるわけではないということもちゃんと認識していた。

これらの奇跡物語の全てについてフロイトが合理的な説明を与えることができたわけではなかったが、しかしフロイトは、患者自身が「自分から絶えずこれらの奇跡の生産に携わっていたこと」(p269)を指摘するということまではできた。つまり、患者自身の能動的な働きかけによって、奇跡が奇跡になるように(奇跡として見えるように)物事を認識したり、行動したりしていたということである。

フロイトは分析を通して、このような偶然の一致に関する信仰の由来になったと思われる出来事を暴いた。

「幼少時彼が何かをしようとして、いざその時日を定める段になると彼の母親はこういうのが常であった。『ちょうどその日には私には何もできませんよ。その日には私は寝ていなけりゃ』と。そして事実、彼女はその予告された当日になるといつも決まって必ずベッドに寝ていたのである。」(p269)

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カッシーラーの読書会をやって、その後研究室のゼミと打ち上げに出てから帰宅したらもう23時。大学の図書館で色々借りてきた。

今読んでいるフロイトのねずみ男症例が詳しく論じられている、1953年のラカンの講演「詩と真実—神経症者の個人神話—」は、Seuilから出ている小冊子「Le mythe individuel du névrosé」でその原文を読むことができるのだが、この冊子には他にも二篇ラカンのテクストが収録されていることがわかった。一つは十字架の聖ヨハネを中心に論じながらミルチャ・エリアーデと行った討論、そしてもう一つが、なんとレヴィ=ストロースとの討論らしい。これは確実に参照しなければならない。本郷の図書館にはなくて駒場のしかも予約が必要な教養図書室にしかないらしくがっかりしたのだが、結局これは重要資料として何度も参照することになるだろうと思い、Amazonで注文した。9月末から10月はじめごろに届く予定である。十字架の聖ヨハネを論じたテクストは、後期に渡辺優さんの神秘主義の講義を受けることになったらレポートとして読解をお行いたいと考えている。

また、行き帰りにラカンの「神経症の個人神話」(邦訳)を何ページか読んだ。ねずみ男症例をじっくり検討していた成果があって、前に読んだ時より何倍も理解できたし、このテクストの凄さ、ラカンの読みの驚くべき鋭さを感じ取ることができた。ラカンはフロイトがテクストとして書いていながらも彼自身が気づいていなかった様々な同一化の関係、象徴的布置の反復を鮮やかに浮かび上がらせていっている。明日以降、こちらも並行してまとめるつもりである。

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  1. 2024/9/24 – shanazawa.com

    […] 9/19(https://shanazawa4.wordpress.com/2024/09/19/2024-9-19/)の続きで、フロイト「ねずみ男」症例(強迫神経症の一症例に関する考察)を読む。(b)強迫神経症患者の二、三の精神特性について——現実、迷信および死に対する彼らの態度、の途中から。 […]

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