2025/09/19

今日はまたいろんな不思議なことに巻き込まれる一日だった。午前中にフランス語の授業を受け、先生にテクスト分析の練習になるような教科書を教えてもらい(リセでいわば国語の教科書のような形で用いられる、名文の読み方マニュアルようなものを勧められた)、12時からパンテオン=ソルボンヌ大学(パリ第一大学)でカンタン・メイヤスー氏の第一回目講義に向かう。

門に立ちはだかるセキュリティを説得する用意は二つあった。①ENS事務とのやり取りで入手した、ENSの登録学生はパリ市内の高等教育機関の講義を受講することができる、という旨が書かれたメール文面、そして②メイヤスー氏から受講許可をもらったメール文面、である。まず①ENS生としての権利があり、さらに②先生からも直接許可をもらっているのだから、学内に入れなさい、という作戦である。

ところがパンテオン前の広場にある法学部入り口から入ろうとして説明すると、なぜか止められる。セキュリティは二人いたが、あまり詳しくない方が僕を引き留め、もう一人のより深い関係者のセキュリティに、こういっている人(僕)がいるけどどうなの?と聞こうとしている。学生だけでなく僕以外にも中に入ろうとする部外者が多くたむろしており、セキュリティはそれらを弾くのに忙しそうだった。詳しくなさそうな大柄の男のセキュリティは、最初は「心配しないで、待ってて」と声をかけてくれたのだが、関係者セキュリティの方がメール文面をちょっと見て「Non」と判断してからは、ダメだと引かなかった。一応向こう側の言い分としては、まず学生証がない奴は入れられない、さらに先生からの許可メールに書いてある「Vous avez la possibilité d’assister à mon cours en auditeur libre.」という一文は、いわゆる受講許可の「l’autorisation」とは違う、ということだった。そう言われてみると、この一文は確かに曖昧とも言える。だがそれは頭からネガティヴに読んだ場合の解釈であって、一般的な感覚で取れば、そして①に述べたENS学生が持つ権利を尊重するなら、ENSの学生証を提示している以上セキュリティは通過するのが当然だろう。

ということで頭にきたので「J’ai le droit (!) d’assister des cours de Paris 1 en tant qu’étudiant de l’ENS !!」と叫んでいたら、日本人の留学生が法学部の中から出てくるところで僕に声をかけてくれた。僕を見てすぐに日本人だとわかったらしい。事情を説明すると、ものすごく流暢で慣れたフランス語でセキュリティに説明してくれた。結局、その門では入れてもらえなかったのだが、法学部の入り口以外に別の建物があったりするらしく、ふたりで先生の事務所や講義室がどこにあるのか確認し、別の建物の入り口で再トライしてみることになった。

てっきりもう数年フランスに住んでいますという院生かとおもったら、僕とほぼ同じタイミング、なんなら僕よりも遅くパリに到着した、パリ大学の大学院に入りたての院生さんであった。

別の入り口でもやはり、②の文面の曖昧さを指摘された。「auditeur libre」というのはそもそも、パンテオン=ソルボンヌの受講制度の中に存在する。有料で、しかも哲学科の講義は受講できない。だからそれには登録せず、ENS学生の権利として聴講することにしたのだ。だがセキュリティはその登録必須の「auditeur libre」のことだと思ったのだろうか。それから「validation」という単語も多義的である。ENSでいろいろ話を聞いていて知ったのだが、「validation」とか「valider」という語は、大学では一般に単位登録のことを指す。ある講義を受講していて、その受講を何らかの単位(crédit)や成績(note)として欲しい時に、「validation」するということである。メイヤスー先生から来たメールの中には、僕の理解が正しければ、まず「聴講生として受けていいですよ」、そして「もし講義をvalidationしたければ、基本的にOKです」という二点が書かれていたはずだ。僕は単位認定は必要なくただ単に講義を聞きたいだけなので、validationは必要ない。だからメール文面以外になんの公式文書も持っていない状況だったのである。

こうした意味作用の煩雑さによってだと思うが、そこの門番もまた、②のメール文面が受講許可の「autorisation」とは認めてくれなかった。それをまた僕が声を荒げて説明しようとしたら、院生さんが巧みに話をつけてくれて、「auditeur libre」として登録するためのビュローがこの建物の中にあるから、それをするために入れてくれ、と説明することでついに中に入ることができた。

とにかく感謝してもしきれない。感謝だけでなく色んな感情もある…。時間がなかったので、後でお礼を言いたいからといって連絡先を交換し、そこで別れた。パンテオンの中は広くて入り組んでいて、洞窟のようだった。そこら辺にいた背の高い青年の学生に「salle Halbwachsはどこですか?」と聞くと、偶然、「メイヤスー先生の授業だよね、僕もそこに行くから」といって案内してくれた。僕よりもはるかに大股な彼の歩きにトコトコついていきながら、アイコニックな中庭を抜けて別の棟へ。Halbwachsに到着。お礼を言うついでに青年に名前を聞いたら「マリ・スリ」と発音していたが、正しく聞き取れたかよくわからない。

メイヤスーはやはり本国でも人気なのか、すでに教室前に人だかりができており、中の席は埋まって立ち見が周囲を取り囲んでいた。メイヤスーが後から到着して、教室の人の多さを見て「auditeur libreの人は〜〜」と何やら話していた(正規の受講登録者を優先的に席に座らせてくれ、というようなことだろうか?)。僕と「マリ・スリ」もなんとか教室に侵入(だが「マリ・スリ」は授業の途中で教室を抜けて行ってしまった)。

メイヤスーは黒いシャツに銀・ベージュ色の白髪が生える初老男性だった。声は動画で聞いたのと変わらない。最初に授業課題の形式(基本的に「紙」で提出、といっていた)や起源など事務的なことを話してから、そのまま本題へ。わらわらしていた学生たちは瞬時にPCやノートなどで速記するマシーンへ変身した。用意してきた紙を見ながら滔々と話すメイヤスーと、それをコピーするPCのタイプ音で教室が充される。

僕は黒板に向かって右壁(廊下側)に立っていたが、床に座り込む者や、窓側なら窓枠の窪んだところに座っている人もいた(次回以降は窓際を陣取りたい)。2時間立っていられるだろうかと心配だったが、案の定、廊下の騒音を避けるためにドアが閉められると熱気が身体全体を温め始めて、その日の色んな体験や感情やとうとう本物のメイヤスーを見ている興奮なども相まって、だんだん貧血になっていくのがわかった。何度も経験している感覚である。

あるラインを超えると、もう横になるか目がぐるぐるして吐くかになってしまうので、そのラインを超えないうちに僕も床に座り込んだ。座り込むと録音されにくいかと心配だったが、仕方ない。教室を出ないといけなくなるよりマシである。

色んな偶然と怒りと人の助けを借りてたどり着いたメイヤスー講義なのに、ほとんどを僕のリスニング力不足と体力不足(気力不足?)とで台無しにしているような気がして、いや気がしているだけでなく実際に台無しにしているのだと思うが、それがとにかく悔しくてたまらなかった。こんなことならちゃんと準備してくればよかった。でもあのフランス語をあの遠くから聞いてスルスル理解したり、話を聞きながら考えたりできるくらいまで、自分がフランス語に堪能になっている姿が全然イメージできない。遠くからでも聞き取りって速記している現地人が羨ましかった。

先に授業を受けたので、肝心の登録(auditeur libreでもなんでも、なんらかの形で)をしなければならない。一度出てしまうと二度と中に入れないと思ったので、今日この時間になんとかする必要がある。いろいろ探しながら歩き回って、最初に文学部受付を見つけて問い合わせた。事情全て説明し終わる前に、「うん、これはrelation internationaleの受付に行って」と言われたので、そうなのかなあと思いつつそちらに向かう。relation internationaleの受付に行くと、金曜日だったのもあってすでに受付時間が終了していたが、ドアに鍵がかかっていなかったので中に入って挨拶してみると人がいた。事情を話すと、それはウチの管轄ではないからと言われる。まあ、そうだよなあと思いつつ、許可をもらっているのにセキュリティを通過できないと訴えると、受けたい授業が哲学科ならここにいけ、と哲学科の事務室の場所を紙に書いて教えてくれた。たらい回しとはこのことだな、と思いつつ哲学科事務室へ。

指定されたところに入り、これをかけ、事情を説明。ENSの学生で、ENS学生はパリの大学の講義を受けることができ、先生からの許可ももらっています、ですが今朝セキュリティをパスすることができなくて、、、なのでセキュリティに見せられるなんらかの登録やattestationが欲しくて…といった具合に。すると、詳しい話は聞き取れなかったのだが、とにかく受付はここではない、と言われた。そして文学部の受付に行け、みたいなことを言われた気がしたので、「一周した!」と思ってたどたどしくそれを説明すると、何やら僕自身が誤解していたのか、とにかく次に行けと言われた事務室は、また別の哲学科のビュローであった。どういうことなのかいまだによくわからないが、とにかくそことは別に「Bureau 001」という原初の事務室が存在するらしく、哲学科の講義ならそこに行けということだった。

大変は大変だが、とにかくまだ「それは無理だ」とは言われていないのだから希望はある。哲学科の原初の事務室「001」に向かうと、留守の模様。少しまっていたら人が来て、その人が001の主で哲学科のディレクターのようだった。ここでも頑張って説明。いろいろ聞かれたのだが知らない単語が連続してうまく応答できず。だがとにかくメールで事情を送ってくれとアドレスを紙に書いてくれたので、お暇してすぐに事情と、それを証明するメール文面のpdfを添付して送信した。返事はまだ来ていない。

なお、メールアドレスを紙に書いてもらった時から不安だったのだが、やはり一読して読めない。筆記体になっているからだ。その辺の学生に聞いたらフランス人ではないから読めないと言われた。フランス人っぽそうな女性を見つけたので「Vous êtes française ?」と聞いたら怪訝そうな顔で頷いたので、なんて書いてあるか教えてもらった。書いてあげるよ、と言われたのでシャーペンを貸し、同じ文字を読みやすい形ですぐ下にもう一度書いてもらったのだが、書いてくれたのはなぜか丁寧で丸みを帯びた筆記体だった。

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